ヒカシューの20世紀ベスト2枚目
1「人間の顔」
20世紀ベストの2枚目はこの曲から始まる。アルバム「人間の顔」には私が渋谷のエッグマンで聴いていた曲がたくさん入っている。
「人間の顔」は当初、沢田研二に依頼されて書いたらしい。けれど没になったので自分たちのアルバムタイトルとした。沢田研二が「6番目のユウウツ」などでロック路線を走っていたころだと思う。いい曲なのにね。カッコイイと思わなかったのかな。
野本さんのサックスが上手すぎる。「人間の顔は面白い」「素晴らしい」「凄まじい」の三段活用。
2「ゾウアザラシ」
これは野本さんの作曲で、大名作。ゾウアザラシが「私の部屋」を侵食してくる恐怖を歌っている。ゾウアザラシがなんの象徴なのかはよくわからない。巻上さんのヴォーカルはどこかユーモラスだ。
この系統の曲では「ハイアイアイ島」があるが、このベストには入っていない。「ハイアイアイ島」には原作があって、原爆実験で失われた架空の島の生態系を書いた本で、ライヴではその中のドイツ語の詩を三田さんが朗読することで演奏に入るというパターンがあった。
そういえば「水に流して」に入っている「岩」は、大江健三郎の「同時代ゲーム」が原作のような気がする。井上さんのシンセサイザーが決まっている曲だった。「パイク」はジャリが原作だったし、ほかにもそういう曲がいくつかある。「次の岩につづく」はタイトルだけらしいけれど。
3「何にもない男」
アルバムで聴いたときはそれほど印象に残らなかったのだけれど、ライヴでやるとギターのリフがものすごく印象的だ。「ヒカシューヒストリー」にはこのころのライヴ音源が入っている。バスクラがギターに絡むのだけれど、往年は野本さんが、最近は清水さんが演奏している。
4「天国を覗きたい」
ヒカシュー独自のクリスマスソング。といってもサンタクロースが殺される話。
野本さんの曲であり、野本さんのサックスが鋭く響いている。
野本さんは80年代半ばから90年代後半までずっとメンバーだったが、そのあとお亡くなりになった。追悼の意味もあって毎年クリスマスライヴでは必ず演奏される。
チャラン・ポ・ランタンと共演したヴァージョンはシングル「チャクラ開き」に収録されている。小春さんのアコーディオンと巻上さんの口琴が響き合っている名演だ。これもクリスマスライヴで披露されたっけ。
5「丁重なおもてなし」
このあたりから私はライヴから遠ざかった。それまで東京に住んでいたのが地元に帰ってきたからというのが最も大きい理由だった。この曲もライヴではじめて聞いたのは2000年前後だと思う。
巻上さんがコルネットを吹いている。このベストでは初のお目見えだが、収録されていない曲ではもっと前から演奏していた。80年代後半のエッグマンでも。
6「キメラ」
遺伝子操作の歌。この曲から30年近く経ったいまでは、遺伝子組み換え種子で大儲けをしている大企業があるし、それへの批判も大きくあるのだけれど、あいかわらず「誰もが生活を理由に無視」し続けている。人類が滅びるのが先かヒカシューがいなくなるのが先か。まあ多分、私が死ぬのが一番早い。
「背中には羽が心には沼が」ものすごく響く歌詞だ。
アルバム「丁重なおもてなし」に入っている曲で一番好きなのは「わが国」だけれど、このベストには入っていない。ほかの曲とかぶるという理由もあるだろうけれどライヴでも一度も聴いたことがない。
「祈り」が入っていないので大友さんの曲がひとつも入っていないことになる。
また、このアルバムの途中でドラムの谷口さんが急逝している。
7「うたえないうた」
これは最近カズレーサーが薦めたことで再び売れ始めた筒井康隆の「残像に口紅を」が原作だと思う。そこからさらに昇華して巻上さんらしい深みとセンチメンタルが両立する素晴らしい詩と曲になっている。曲は坂出さん。
このあたりがヒカシューの最初の爛熟期だろう。
8「びろびろ」
アルバム「はなうたはじめ」からドラムにつの犬が加わってジャジーな感じになってくる。ピアノソロが聞こえるなあと思ったら高瀬アキさんだった。
この曲も最初はそんなに感心しなかったのだけれど、ライヴでは欠かせない曲となった。「ピース」のレスポンス、みんなでやろうね。
9「もったいない話」
この曲もかなりライヴで聞いた。不規則な構成の曲。これの発展型が「生きること」ななるんだろう。巻上さんの右手の動きは「振り付け」なのか「指揮」なのか。
10「虫の知らせ」
この曲も野本さんのサックスが美しい。コルネットとの掛け合いもいい。
11「あっちの目こっちの目」
このアルバムから井上さんが脱退して、トルステン・ラッシュが加わるが、私はトルステンをライヴで見たことがない。井上さんはその後もときどきゲストという形で参加する。客席で会うこともある。いまは幼稚園の園長先生で、その幼稚園では巻上さんのライヴがあったりする。そういえば最近、井上さんと山下さんの「イノヤマランド」がヨーロッパを中心に売れ出して、日本でのライヴも何回も行われている。
ローレン・ニュートン(ヴォイス)がゲストで参加していて、この曲は彼女のための曲のようだ。少し前に「ジャズアート仙川」に来日して、そのときももちろんこの曲をやったはずだが、私は行けなかった。
12「石仏」
ハンジー・ノバクがエレキバイオリンで参加している。実はヒカシューとヴァイオリンの相性はとても良く、ライヴのゲストにヴァイオリンが入っているときは実に良い。アレクセイ・アイギの演奏は横浜ジャズで聴くことができた。太田恵資さんが加わった演奏も聴いたことがある。
13「さなぎ」
いま聴くと前奏のヴォイスがすごく怖い。このベストはすべてオノセイゲンによるリマスターなので、「いま」の音になっているし、聞こえていなかった音が粒立ったりしている。
「さなぎ」というタイトルの筒井康隆の短篇があったけれど、どんな内容か忘れた。
14「不思議をみつめて」
ライヴに行かなくなっていてもCDはちゃんと買っていて「超時空世紀オーガス02」のサウンドトラックも当然のように持っている。あのころはどうやって発売情報を得ていたんだろう。今みたいにインターネットで簡単に検索できるような時代ではなかったし、ニフティサーブのようなパソコン通信にはまったのももう少し後だったと思う。たぶん実際にお店に行ってチェックしていたんだろう。月に一回くらい日本橋の電気街に出てCDやLDを買っていた。「マクロス」などのLDも随分持っていたけれどプレイヤが壊れてしまって全て売ってしまった。「オーガス」はレンタルヴィデオで見た記憶があり、そのオープンエンディングにやきもきした。「02」のほうはまだ観たことがない。
アニメの主題歌なんだけれどすごくいい曲だし、変だし、歌の入っていないほかの効果音楽を聴くとインプロヴィゼーションのエッセンスを集めたすごいものになっている。
いまは「不思議をみつめて」というタイトルでリマスタリング・再発売されている。
15「20世紀の終りに 1996ver.」
「1996ver.」というのは「かわっている」というセルフカヴァーアルバムのヴァージョンである。このころのメンバーのものはあまり音源が残っていない。キーボードに吉森信が加わり、ドラムスが新井田耕三に変わっている。
メロトロンの音も聞こえるような気がするんだけれどクレジットにはないからサンプラーなのかな。
16「パイク 1996ver.」
「20世紀の終りに」は、「かわってる」ヴァージョンではなく原曲に近いかたちでライヴでも演奏されるが、「パイク」はこのヴァージョンに近い形で演奏されている。とはいえ「ヒカシューLIVE」(1991)ですでに現在の形に近くなっている。
ラストで巻上さんのホーメイが聞こえる。テルミンはまだ聞こえない。1998年の「放射能」のカヴァーで初めてお目見えするがライヴではいつごろからやっていたのか憶えていない。
前回のブログの最後に「成績が上がるかどうか」について書いたのを読んだ人から「民族の祭典」(巻上さんのソロアルバムだけれどメンバーはほぼ「うわさの人類」のころのヒカシュー)の帯を思い出したとの連絡があった。「聴く奴の偏差値が暴かれる!」と書いてあった。趣旨は違うがまあそういうことです。趣旨といえばそもそもこのブログにこんなことを書いている時点で趣旨が違うわけだが、でもヒカシューを聴けば成績の上がることもあるよ。