ヒカシューの21世紀ベストの二枚目
昨夜はヒカシューのクリスマスライヴでしたが、私は行けませんでした。数年前までは毎年のように行っていたのでしたが、このところ行けていません。
ということで数日おいて21世紀の二枚目に入ります。
1「筆を振れ、彼方くん」
トップにふさわしいノリのいい曲。オープニングインプロに続けて清水さんのキーボードの前奏からこの曲に入ることが恒例になっていた時期があった。曲終りで、歓声や指笛が響き渡るのだ。
2012年のアルバム「うらごえ」に入っている曲だけど、その前から何度かライヴで聴いたことがあるような気がしている。「アリの歌」という認識だったが、実際に歌詞にアリは出てこない。「足」とか「虫」とかは出てくるので、その辺でそう思い込んでいたのかもしれない。
野外ライヴで「雨よ雨よ降れ降れ」という歌詞のところで、本当に雨が降り始めたという伝説もある。
2「なのかどうか」
2013年のアルバム「万感」のテーマ曲。サビと言っていいのかどうかわからないけれど「なのかどうかどうかしたか」という歌詞のところの畳み掛け方が好きで、つい口ずさんでしまう。
3「うらごえ」
タイトル通り裏声で歌う部分がある。アルバムが出る直前の大阪のライヴではじめて聴いた。その前日別の場所で聞いたという他の客から「すごいですよ」と耳打ちされた。新境地を打ち出した感があった。このあたりからバンドが爛熟して過去最高のメンバーだと思えるようになってきた。
大阪でのライヴは客が入らないという時期がしばらく続いたころだった。最近はだいぶましになってきたか。解説を書いている田中啓文という作家も大阪在住で、大阪でのライヴのときはよく見かける。
4「にわとりとんだ」
ヒカシューらしい遊び心に富んだ曲。アルバムではヴォイスは巻上さんだけだけど、ライヴのときは全員でニワトリの声を演奏する。短い曲で、いつ終ったのか分からないとも評される。
5「ニョキニョキ生えてきた」
ライヴでもよくやる曲で、ロシアで大受けしていたけれど、個人的にはライヴでこの曲を聴くのはあまり好きではない。なんとなく歌の部分とインプロの部分のバランスが良くないような気がするからだけど、CDで聴くとすごく良く感じる。「お腹が空いても空気が変でも」貧困と災害の日本を歌っているのだと思う。
6「マグマの隣」
清水さんのピアノから始まる曲であり、「筆を振れ、彼方くん」の後釜としてオープニングの後によく演奏されるようになった。もちろん「地震列島日本」を歌った曲である。
7「生まれたての花」
しっとりと聴かせる曲でもあるし、硬い乾いた印象を与える曲でもある。東北大震災直後の心情を歌っているのだと思われる。
8「夕方のイエス 朝方のノー」
タイトルに「イエス」が入っているのでキリスト教の歌とよく間違われるらしいけれど直接の関係はないとのこと。
朝方は「ノー」だったのに夕方になると「イエス」に変節するという意味だと思う。
私はこの曲を聴くと涙がこぼれる。歌の部分と真ん中のインプロの部分の取ってつけた感がよりバランスを感じさせるのはなぜだろう。
9「もしもしが」
「もしも」と「もしもし」の区別がつかないという曲。語り方による意味の伝え方。ライヴでサックスの音で電話の切れる音を表現したと言われているのは、坂田明さんだったか。現場に居合わせなかったのが悔しい。
坂田さんもときどきゲストで演奏する。巻上さんとのつながりは映画「風の歌をきけ」以来のようだ。巻上さんが「鼠」坂田さんが「ジェイズバーのマスター」だった。
「モグラはモグラ」「カラスはカラス」というところが好きで、これもつい口ずさんでしまう。
10「あんぐり」
雑誌「ユリイカ」の短歌特集号に載った短歌が歌詞になっている。だからすべて五七五七七になっている。イントロの坂出さんのベースもそうか。「あんぐり」というタイトルには "ANGRY" という意味もかけられているのだろう。2017年のアルバムタイトルとなっている。
11「メロンを鳴らせ!ベルーガ」
インプロヴィゼーションの曲。タイトルの意味はわからない。
12「テングリ返る」
「テングリ」というのはモンゴル地方の山の神様の呼び方らしいが、厳密には神様ではなく、中国に伝わった「天」の語源でもあるらしい。
途中で曲調が変わるのはなぜだろうと思っていた。巻上さんの歌詞を元に、坂出さんと三田さんが別々に曲を書いてきて、どちらも良かったので混ぜたということらしい。どちらがどちらの曲かは判断できないでいる。
「風には足が生えている」「足には影が生えている」「影には音が生えている」何とも言えない詩情を感じる。
13「了解です」
「了解です」という言葉は日常生活ではあまり使わないと、巻上さんが言っていたけど、関西では割とよく使うように思う。ゲストヴォーカルで吹雪ユキエとあふりらんぽが参加している。
14「いい質問ですね」
タイトルは私の嫌いなキャスターの言葉らしいけど、内容はAIと人間の相克を歌っている。「グローバルシティの憂鬱」や「デジタルなフランケン」につながるテーマでもあると思われる。
15「至高の妄想」
この曲をラストに持ってきたのもものすごくいいと思った。2017年のベストテューンだろう。
中程のロシア語のリフは「黒の正方形」と「白の正方形」を表している。ロシアアヴァンギャルドの作品が元になっている。